検査屋📷 ⑦
検査屋📷 ⑦
ある日、胃のバリウム健診に来た方がいた。
胃のバリウム検査とは、皆様がよくご存じの
白い液体を飲まされ ゲップを我慢させられ
宇宙遊泳のようにグルグル回される検査だ。
1~2年に一度、企業健診や市民健康診断
などで 検査を受けられる方々が
ほとんどである。
これらの検査は、大体 企業サンか市役所が
検査代金を負担してくれるケースが多く
ほとんどの方々は、千円~五百円前後で検査を受ける事ができる。
ただ、まれに 人間ドックという形で健康診断
を受けられる方々もいる。
こちらの検査は、何が違うかと言うと
基本的には 大体同じなのである。
多少、健診施設により 精密検査のように
細かな所まで検査をする場合
あとは、採血などの血液検査を含めているなど
少し検査グレードが高くなって場合もある。
または、検査自体が 優しく丁寧になるなど
もあるかもしれない。
人間ドックでは、病気ではない形で検査を
受けるので検診者の全額実費負担になる。
そのため、あまり実費負担で健診を受けられる
方は珍しいのである。
〔今日は、胃バリウムの検査が入ってます~。
人間ドックです~!宜しくお願いします!〕
放射線科 受付より連絡が入る。
『は~い!了解です~!』
担当技師は機嫌良く答える。
人間ドックで胃バリウムとは
健康意識の高い人か
どこかの社長さんかもしれないなぁ。
そんな事を考えながら、胃バリウム検査の
用意をしていく。
バリウムの白い溶液を作製し
発泡剤と言う 胃を膨らますお薬を用意する。
それに、バリウムを飲む紙コップ
口を拭く ウェットティッシュなどを
準備する。
『胃バリウム検査の方 どうぞ~。
お待たせしました。お入り下さい。』
ご年配の男性が検査室に入ってくる。
『本日は、人間ドックでの胃の検査をします。
宜しくお願い致します。
最近は、胃の具合はどうですか?』
担当技師は、優しく質問をする。
検査前には、大体 体の調子や 胸焼け・胃痛
胃もたれなどがないか確認してから検査を
行っていく。
胸焼けがあるなど検査前に聞くことで
胃酸の多い方や、胃下垂、食道の炎症など
ないか考えながら検査を進めていくためだ。
胃の具合の質問をされた男性は少し間をおいて
【今日は、人間ドックで胃の検査をお願い
してるのですが
健康診断の目的ではないんです。
実は、胃に違和感と言うか
またに痛みがありまして。
近隣の病院を受診したのですが…。
胃薬を出されて飲んでも
良くならないんです。
胃炎だろう と言われたのですが
どうしても気になって
人間ドックを受けに来たんです。】
『なるほど~。そうでしたか…。』
人間ドックで来院されてはいるが
セカンドピニオン的な要素もある方である。
『では、胃の検査を始めますね。
まずは、この胃を膨らます薬を
飲んで頂きますね。
次に、バリウムを飲んで下さい。
ゲップは、少し我慢して下さいね。』
『飲み終わりましたら、体をグルグル回して
いきますね。』
『では、撮影していきます。
息を吸って、少し吐いて止めて下さい。』
検査装置のX線菅球が高速回転する音が聞こえ
すぐに胃の写真がモニターに写し出される。
『はい、また続けていきますね。
また、息を止めて下さい。』
[ん?]
これは……。
胃癌の可能性が高い…。
少し、技師の手が止まるが 検査を受けられて
いる方に悟られてはいけないので
そのまま、続けて検査をしていく。
『では、検査を終わりますね~。
お疲れ様でした。
ご気分は大丈夫ですか?』
平静を装い、技師は優しく話しかけると
【先生、ワシの胃に何かありましたんか?
一瞬、止まってはったから…。
どうなんですか? 】
私達、技師の仕事は検査をすることであり
診断を下す事はできない
ただ、検査をするには診断をできるぐらいの
目は必要である。
でなければ、病変を検査はできない。
ただ、それを伝え治療方針を決めるのは
主治医の仕事である。
分かっていても、直ぐには伝えられない
もどかしさが その時、技師にはあった。
『まだ、検査写真を作成してまして
まだ分からないんですよ~。
すみませんね~。』
【そうですかぁ。】
通常は、結果がでるまで約1週間ぐらいかかる
その後、診察の予約をして 結果を聞くのに
また2~3日かかる。
それを分かっている技師は 人間ドックの方に
確認する。
『次の診察の予約はいつ頃ですか?』
【たぶん、2週間後ですかね~。
まだ、前の病院の胃薬あるんで
それで様子をみますわ!】
『そうですか…。
分かりました。
では、検査で使用した バリウム薬剤の
説明がありますので
このまま、検査室内でお待ち下さいね。』
2週間も、この方を待たせてはマズイ…。
技師は、薬剤の説明と称して時間を稼ぎ
その間に、胃専門の医師に相談する事にした。
人間ドックの方には まだ、伏せたまま。
胃専門の医師に電話連絡を入れる。
『先生、忙しい所 すみません。
実は、人間ドックの胃検査で
大きめな病変がある方がいまして…。』
ことの経緯を説明する。
《そうかぁ~。とりあえず写真見るわ。
ちょっと 待ってて。
……… ん!?………
バリウム検査後やんね~。
とりあえず、入院して明日に内視鏡検査やな
すぐに診察するから患者サン連れてきて。》
このあと、人間ドックの方は
診察を受け、入院になり
翌日、内視鏡検査ののち
胃癌の手術が施行された…。
まだ、なんとか手遅れになる前だったので
治療は間に合った。
手術後、入院中の検査にて
技師と再会し 人間ドックの方が涙目に
お礼を言われた。
【主治医の先生から話を聞きました。
あの時、検査の先生が連絡をくれなかったら
進行して 間に合わなかったかもと。
先生、本当に ありがとうございました。】
技師の仕事は、裏方である。
医療の現場で 患者サンの前に立ち
治療や、処置をしたり深く関わる事はない。
しかし
病を見つけるのは
目の前の主治医だけではなく
病の原因を探り、レントゲンやCTで病変を
写し出す裏方の仕事もある。
現代医療を支える「画像診断」
患者サンの前に立つことはなくても
そこで働き、患者の病、怪我の根源を見つけ出す放射線のエキスパート達もいるのである。